藤岡藤巻って?

私に言わせてもらえばね、”ちょい悪オヤジ”なんてのは所詮は素人ですよ、素人。そんなヤツはオヤジの素人だって言うんです。ブランドなんかで身を固めちゃってさ。私? そりゃ、ブランドぐらいもってますよ、ワニのやつ…タコスケ? いや、ラコステでしたっけ? でも、私のラコステは珍しくてね。ワニが笑ってるんですよ、ワニが。自慢してるわけじゃないんですけどね、あなたそんなの持ってます? ふつーはすまして横を向いてるでしょ。
…えっ? それって偽物なの? …ウソー!!!

2008年のジブリ映画『崖の上のポニョ』の主題歌を、大橋のぞみちゃんと歌っていた二人組のオヤジがいた。”藤岡藤巻”である。

gake1今となっては完全に世間の記憶は書き換わって、「ポニョって、紅白歌合戦でものぞみちゃんが一人で歌ってたよね」と藤岡藤巻のことはスッポリと抜けているけれど、本人たちでさえ記憶が曖昧になっているくらいだから仕方がない。

”藤岡藤巻”のことを説明するのってなんか難しいのよ。そりゃね、それっぽいことは書けますよ。

藤岡と藤巻は小学校からの同級生で、”藤岡”を担当している藤岡孝章は、ソニー・ミュージックエンタテインメントでディレクター,プロデューサーとしてシブがき隊、加藤和彦、宍戸留美他、40組以上のアーテストを手がけた後に独立したとか、”藤巻”担当の藤巻直哉は、博報堂でジブリの担当者をつとめ、数多くの映画のプロデュースをしているとか。

そんで”藤岡藤巻”としては2枚のアルバムを出した後に、”藤岡藤巻と大橋のぞみ”名義でジブリ映画『崖の上のポニョ』の主題歌を担当、映画の大ヒットに伴って2008年の『第59回NHK紅白歌合戦』に出場したとか、ブレイク前の里田まいちゃんと『オヤジの心に灯った小さな火』というデュエットシングルを発売したけど売れなかったとか、ブレイク後の里田まいちゃんと『続・オヤジの心に灯った小さな火』という歌を発売したけど、やっぱりダメだったとか。ファミマのフライドチキン『キチンとチキン』の作詞作曲をしたけど誰も気づいてくれないとか。

でもね、これだけじゃ全然、藤岡藤巻のことは伝わらないわけ。よく知られているイメージと本来の姿にギャップがあるなんてことは、日常でもよく経験することだけど、藤岡藤巻の場合もそんな感じ。

二人は70年代にもう一人の同級生と”まりちゃんズ”というフォークバンドを結成、約1年の活動期間ながらも『ブスにはブスの生き方がある』,『尾崎家の祖母』など、出す曲の殆どが放送禁止になるという快挙をなしとげ、その破天荒な姿勢はフォークの皮を被ったパンクバンドと呼ぶにふさわしかった。

”まりちゃんズ”活動停止後は、各々、音楽業界と広告業界のサラリーマンになるが、遊びで応募したホモの歌のデモテープ『キャンパスレポート もっとクリスタル』がいきなりレコード化。しかし、ヒットの兆しが見えはじめた時、「こんな下品な歌は我社の品位を落とす!」と発売元社長の逆鱗に触れて、ディレクターが左遷されるという悲劇を迎える。

彼らは50代に差し掛かったとき、今度は会社と家族に内緒で、サラリーマンオヤジのための歌をff1歌うために”藤岡藤巻”を結成する。しかし、”まりちゃんズ”時代の精神を消せるわけもなく、事務所もマネージャーもいないその活動は、これまたパンクな程にアバウトであった・・・。

藤岡藤巻はオヤジのためのオヤジの歌を歌いたいわけです。もちろん、子供はお断りなんてケチなことは言いません。

だってね、大人の心の中に少年が住んでいるように、子供の心の中にだってオヤジが住んでるんです。女性だって、来世は男性になるかもしれないでしょ? そんなわけで全方位でどうぞ。

静 炉巌

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